春を呼ぶドッペル事件?
「見たところ赤いリュウカもここにいる気にはなれたように思えるが、このままではおそらく君たちをどう呼び分ければいいかわからんだろう。そこで、赤髪の。君の呼び名を、考えてほしい」
姿もそっくり、名前も同じ。色と花飾りという違いこそあれど、それで呼び名がバラバラになってしまっては覚えが悪い。
なら、この街を作った山水木。さんに伝えてもらう「呼び名」をここで決めてしまおう、という話だ。
「呼び名……」
「要するに、あだ名だね。これがいい、とかがあったら教えてほしいけど……」
リュウカの青い瞳が、赤い瞳の方へ向く。
「えっと……ごめんなさい、いまいち思いつかないや……」
少し恥ずかしそうに、赤の視線は青から逸らされた。
「そっか。それなら、私の分身の呼び名と同じ命名法でいいかな?能力とか、特徴とかから決めるの」
「それだと、どんな能力が使えるのか聞かんとならんが……」
「あ、あの」
青い少女と神の会話に、赤の少女が声を挟む。
「私……植物を芽吹かせたり、成長させたり……花を咲かせたりできるの。ちょっとだけだけど……参考に、なるかな?」
リュウカとローロリオは顔を合わせ、頷いた。
「植物が芽吹くといえば、春。そして植物を育て、花開かせる力があるなら、『春を呼んでいる』ようにも見えるかもしれないから……『春呼びリュウカ』、略して『春呼(はるよび)』!どう?」
「『春呼』……」
青いリュウカの提案した呼び名を、少女は自分で呟いてみた。
「もちろん、好きなように変えても構わない。君を示す呼び名だから、呼ばれて心地のいい言葉を考えてほしい」
ローロリオの言葉を聞いたうえで、少女は静かに考え、そして少し微笑んで頷いた。
「……うん。とても、良いと思う。春呼って名前……私、好きだな」
「良かった!」
赤い少女――春呼の答えを聞いて、リュウカはぱっと笑顔になった。
「そうと聞いたらさっそくみっちゃんに報告しなきゃ!ほら、行こう!」
「わ、わ、ちょっと待って!」
リュウカはそう言って突然立ち上がり、春呼の腕を掴むとぐいぐい引っ張りながら部屋を飛び出していった。
そんな2人を見て、やれやれとローロリオはため息を吐く。
また、一段と賑やかになりそうだ、と。
こうして、ポルカーナでのちょっとした事件は解決したのだった。