バレンタイン戦略
ある晴れた日、バレンタインのポルカーナ。
もぉー、めぇめぇ、コッコッコッコッと賑やかな声が聞こえる酪農一家の敷地内。
そこに彼女、ぱるすはいた。
戦略的徘徊と称して彼…ウィルの姿を追うのだ。
ただ、彼がそれを気づくことはあまりない。
ただ我が家で面倒を見ている牛の観察なのだろうと片付け、家の手伝いに奔走しているからだ。
だけど、それでもいいと思って彼の頑張る姿を追った。
額に汗して手伝いをする姿は、何度見ても、何時間見ても飽きないしかっこいい。
「…はぁ、今日もウィルかっこいい」
ぽつりと漏れた独り言。
今日はバレンタインなのだから、こちらから話しかけてみようと思って来たものの、勇気が出ない。
手作りのチョコレートクッキーを抱きしめるように抱えつつ、小さな溜め息を吐いた。
…と、ぱちりと目線が合った。
ウィルはぱるすの元へと駆けてきた。
「ぱるす!」
「ひゃいっ!?」
思わず声が裏返る。
何事かと思って少し身構えていたら、差し出されたのは不格好なパンプキンパイ。
「え、え?」
「ほら、今日バレンタインだろ?俺は男だけど、ぱるすにあげたいって思って」
どうしよう、本当に予想外すぎて声が出ない。
にやけそうになる顔を、赤くなる顔を隠すようにぱるすは持っていたチョコレートクッキーをウィルに押し付けた。
「え?」
「…ばっ、バレンタインだから!」
それだけしか言えず、ぱるすは駆け出してしまった。
破顔してしまうのを必死に我慢して、不格好なパンプキンパイを抱きしめるように抱えて。
ポルカーナの街の人混みに消えていった。
…ぱるすに走り去られてしまったウィルはぽつりと呟く。
「…俺が作ったパンプキンパイをぱるすにあげたいって思ったんだけど、これなんだろ……ドキドキする」
ウィルが思いを自覚するのは、まだまだ先の未来の話。