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薬学者の不養生

「へっ…へっくしゅ!」  

 …唐突にくしゃみから始まってしまって申し訳ない。  
 私はロゼッタ、医者兼薬師としてポルカーナに滞在しています。  
 ポルカーナはジャングルバイオームなので冬場でも比較的暖かい…のだけれど、さっきからくしゃみだったり咳だったりが止まらないのです。  

 …もしかして、風邪?  

 自宅はまだ完成していないので、ホテルの一室を借りて体温を計る。  
 …38.2℃、紛うことなき風邪だ。

「…ドクターさんに診察お願いして、お薬は自分で作ろう……」  

 ホテルのスタッフさんに事情を説明したら、すぐにドクターさんを呼んでくれた。   細やかなサービスもこのホテルの魅力のひとつだ。

「…扁桃腺が腫れていますね、喉からくる風邪です」
「けほっ…やっぱりそうですか」
「とりあえず安静に、あと栄養価の高いものを食べてよく寝なさい。…薬の調合はしないように、楽な仕事じゃないんですから」  

 自分で調薬しようとしてたことまでバレてる、よく患者を見ている人だと苦笑いが漏れた。  
 診察が終わったから帰るのかと思いきや、
「少し寝て待ってて下さい」  
 と言い残し、ドクターさんは出ていった。  

 …迷惑かけちゃうな。
そんなことを考えながら、いつの間にかトロトロと意識は夢の中へと落ちていった。  
 …あれからどれだけ寝たのだろう。
窓の外は夕暮れ、何も食べずに寝ていたからお腹も少しすいた。  
 …と、扉をノックする音が響いた。  

  開けると、そこにはドクターさんだけじゃなく、リチアさんとソーニャさんもいた。

「大丈夫かい?ほら、カボチャのスープとお粥作ってきたよ!」
 ソーニャさんが言う。

「風邪と聞いたので、お見舞いの花と少しでも気分が楽になるようにポプリを持ってきたんですよー」  
 リチアさんが言う。

「…料理もからきしな私なので、主婦のお二方に協力してもらいました。とりあえず食べられるだけ食べて、寝ていなさい」  
 ドクターさんが言う。  

 こんなにも、風邪ってだけなのに世話を焼いてくれるのか…  
 私は反射的に
「ごめんなさい」  
 と言っていた。  だって、こんなにもいろんな人に迷惑を…

「そうじゃないだろう?」
「そうですよー、謝ることありませんよ」
「こういう時は、素直に『ありがとう』でいいんだよ、ロゼッタさん」  

 3人にそう諭されて、私はまだ熱い顔を笑顔にした。

「ドクターさん、ソーニャさん、リチアさん……ありがとう…」  

 照れくさいけど、病人の面倒を見てくれたのだ。  
 お礼くらい言えなきゃダメ、だよね。  

 ソーニャさんのスープとお粥は食べやすかった。  
 リチアさんのお花も綺麗だったし、枕元にポプリを置いたら心地好い香りでよく眠れた。    

 そして、何よりドクターさん。
 風邪の私を診察してくれただけでなく、こんなにも世話を焼いてくれた。  
 3人には感謝してもし足りないくらいだ。  

 …後日、あっという間に風邪が治った私は、今度はポルカーナの人々に風邪が流行ってもいいように薬を作りまくって倒れるのだが、それはまだ知らないお話。

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