がんばる!まおうさまっ!
我輩は魔王である。
名前はユンヌ、我が故郷の世界では『禍々しい』や『混沌とした』という意味を持つ名だ。
勇者との戦闘に敗北した我輩は生きる為、逃げ延びる為に魔法を使った。
だが移動系魔法は使い慣れぬ、故に暴発して我輩は見たことも無い世界へと降り立った。
先人達が言うには、ここはポルカーナなる街らしい。
みっちゃんこと山水木。なるか弱い女が1人で作り上げたのだそうだ。
ゾンビやスケルトンといった下級のモンスターは出るものの、至って平和な世界でありのんびりした街だ。
ここでの我輩はただの街人であるらしい、なにせ別世界の存在は我輩だけではないし、精霊や神まで暮らしているのだから。
だが何もしないのも退屈で仕方ない。
故に我輩は地理を把握するのも兼ねて街を歩き、困っている街人に救いの手を差し伸べてやることにした。
炭焼小屋の青年が
「火力が足りなくて炭が量産出来ない」
と言えば火炎魔法で火力を底上げしてやり、
「かんじをおしえてほしーの」
と影のモンスターが言えば理解出来る範囲内で文字を教えてやり、
「池に落し物をしたから釣竿で探すのを手伝ってほしい」
と子供らに言われれば同じように釣竿を手にして失せ物探しを手伝った。
だが我輩にも不可能な事がある。
例えば死者の復活であったり、ゾンビに侵食されつつある体を元に戻してやったりだ。 そんなやつらもこのポルカーナではのびのびと生きている。
…いや、幽霊もいるのだが。
花広場なる場所の盲目の魔法使いも見てやったが、あれも我輩にはどうにも出来ない類のものだった。
あれは一種の『呪い』にも見えた。
目を治そうとすれば、傍らの精霊が無事ではすまない。
あの精霊はかの魔法使いの目そのものなのだ。
助けになれなかった事を詫びたが、
「いいのです、困ってはいませんから」
と言う。
…傍らの精霊も、魔法使いもきっとわかっているだろうに、彼らは共存を選んだのだな、と。
不覚ながら、こやつらには敬意を表したくなった。
今日1日である程度ポルカーナがわかってきた。
だがここはまだ発展の途中だ。
いずれまだ見ぬ建造物が立ち並び、まだ見ぬ街人がやってくるのだろう。
その時は我輩も先人として手を貸そう。
我輩がそうしてもらったように、恩義には恩義で報いねばならぬ。
我輩は魔王である。
だが、今はただの街人である。
今日もまた、手を借りたい街人に救いの手を差し伸べてやろう。