カタオモイの鍵
「ありがとうございましたー、お幸せに!」
今日もカップルが訪れ、南京錠を買っていく。
目的は見晴らし台の上、南京錠をかけていくと恋が長く続くという験担ぎだ。
そんなカップル達を見送り、私は営業スマイルを戻して小さな溜め息を吐く。
私は片思いの真っ最中だ。 しかも相手は気づく素振りすらない。
こうも鈍感なのかと枕を濡らしたりもしたし、さり気ない一挙一動で喜んだりもした。
「…はぁ、どうしたらいいのかなぁ」
思わず愚痴も零れる。
…と、ダヤンちゃんに聞かれてしまった。
「ロキちゃんどうしたの?悩み事?」
「あ、え、ええっと…」
少し言いづらいけど、ダヤンちゃんは言いふらしたりはしない子だ。 意を決して相談してみる事にした。
「……私、片思いしてて、相手が気づく素振りすらないから、脈なしなのかなって…」
「あー…ロキちゃんの好きな人って確か」
「言わないで、恥ずかしいから!」
名前が出るだけで顔が赤くなってしまうのだ、もはや病気みたいなもの。
元々『恋』なんて皆そんなものなのかもしれないけど。
気づくと、目が追うの。
気づくと、考えているの。
気づくと、心に住み着いているの。
「…じゃあさ、願掛けに南京錠をかけてみたら?」
「え?で、でもこれカップル用だし…」
「恋が叶いますようにって、恋する気持ちが変わりませんようにって願掛けしたらいいじゃない。そういう南京錠も需要あると思うよー?」
そうか、恋を叶えたい人向けの南京錠というのは考えた事もなかった。
なら、試しに置いてみるのも悪くないかも…
「ダヤンちゃん、ありがとう。願掛けやってみるね」
「うん!ロキちゃんの恋が叶うといいね!」
ダヤンちゃんと別れた後、私は南京錠と鍵を持って屋上へ。
南京錠に祈ってから、カップル達の南京錠に混ざって鍵をかけた。
鍵は首から下げておこう、いつか勇気を出して告白出来るその日まで。
硬い堅い片思い、どうか実りますように。