top of page

喫茶店のとある1日

 カツン、コツン、カツン、コツン。
交互に木製の音が鳴る、少しの思考時間が空いたりしつつ、また再び駒を進める。  

 カツン、コツン、カツン。
…ここで静かな時間が流れる。 相当悩んでいるのだろう、だが小さな吐息と共に手が挙がる。

「…あー、手詰まりです。まいりました、ウォルコットさん強すぎますよ……」
「ふっふっふ、これでも伊達に長生きしていないからね」  

 これでチェス対決は、直人君の3戦全敗。  
 ふふ、このやり取りは眺めているだけでも楽しい。

「しおりちゃん、笑わないでよぉ…」  

 直人君の情けない声にまた笑いが込み上げてきてしまう。  

「ふふ、ごめんね。でも見てて楽しくって」
「しおりちゃんも1戦どうですか?」
「そうですね、たまにはやってみようかなっ」  

 読んでいた本を閉じ、カウンター席へと移動する。  
 チェス盤の駒を整列させ、いざウォルコットさんと対戦。  

 カツン、コツン、カツン、コツン。
静かな時間が流れる、ただ静かなだけではなく、思考を巡らせる感覚がたまらなく気持ちいい。  

 カツン、コツン、カツン、コツン。
小さな喫茶店で、こうした時間を楽しむ日々は心地よい。  
 暖かくて、穏やかで、静かで、思考を巡らせる時間もただ楽しい。  
 …ふと、創作意欲も湧いてきた。
次の絵本は、静かな森の中でカフェを営む小人の話にしようかな?   それとも、ケンカばかりの白と黒の猫達が仲良くなる話がいいかな?  
カツン、コツン、カツン、コツン。
気づいたら、あっという間に手詰まり。
ウォルコットさん強いなぁ……

「まいりましたー」
「はい、対戦ありがとうございました。…いい話でも思いつきましたか?」
「はいっ!早速お家で絵本を描いてきますっ!」  

 ガタッと立ち上がり、お会計を済ませて小走りにガーネットガーデンを目指す。  
 暖かな日差しを受けて、穏やかで静かな風になぜられて、揺れる髪をかきあげて。  
 創作意欲の湧きあがる日々、やっぱりポルカーナに来てよかったな。    
 道すがら見かけた猫さんに挨拶して、チトラちゃんやさくらさんとも挨拶して。    

 私は歩く、軽やかに。  
 私は歩く、好きな道を。  
 私は歩く、夢に向かって。  

…絵本作家としての夢が叶うのは、もう少し先の未来の話。

 

bottom of page