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雪国の兄弟

 あるうららかで平和ないつものポルカーナでのこと。
交番勤務はほぼ形だけで、最近はもっぱら見回りを兼ねたわんこ達の散歩、コッコ巡査のお世話、そして他愛もない会話が日々を締めていた。

「ユキトミもポルカーナは慣れたか?」  

 先輩かつ上司であるオマリーさんが声をかける。  
 僕が来てから、よく交番での留守番を交代してウィル君達とも遊んでやれると本人はどこか嬉しそうだ。

「ええ、ここは本当に暖かくて良いところです」  

 長袖にマフラーという、ジャングルバイオームでは暑すぎる衣装ではあるのだが、僕はこのくらい暖かくてちょうどいい。

「そういや、ユキトミは雪国産まれなんだったな」
「はい、子供の頃は寒いのが嫌いで嫌いで仕方なかったので暖かいポルカーナは大好きです」
「あっはっは!じゃあここはさながら天国だな!」  

 こうして昼食にチロルのパンを齧りながら上司と話す時間も好きだ、なんていうのは照れくさいから言わない。  

 …ふと、オマリーさんが
「故郷はどんなとこだったんだ?家族は?」  
 と話を振ってきた。
…そう言えば、雪国産まれという事くらいで故郷や家族について詳しく話した事はなかったな。

「…故郷は小さな村で、家族は父と母、それから3つ離れた兄がいました。…僕は、あまり故郷が好きではないです」

「…あー、詳しく聞かない方がいいか?」

「…いえ、吐き出したいので聞いて下さい」   

僕がそう頼むと、オマリーさんは黙って頷いた。   

僕は話を続ける。

「うちの故郷の村は、夏の一定期間以外はほぼ雪で覆われる程に雪深い場所で、雪に溶け込むからか白い髪は不吉の象徴として疎まれていました。そして、兄は白い髪の子として産まれてきたんです。…今でも、兄は故郷では村八分状態だと思います。」
「…また古い因習があるんだな」
「でも、兄はとても強いんです。どんなに蔑まれても、迫害されても、笑顔を失わない…自慢の兄です」  

 これは本当。
古い因習に負けない兄は強くて、かっこよくて、憧れだった。
警察官を志したのも、兄のように不当な迫害を受ける人を減らしたかった気持ちがあった。

「で、そのお兄さんはどうしてるんだ?」
「…村を出て、教師になったと最近の手紙にありました。人は平等だと伝えたいなんて書いてあって…ああ、あと近々ビックニュースを聞かせてやるとかなんとか書いていましたね」
「ビックニュースねぇ…もしかしてポルカーナで教師やり始めるんじゃないか?」
「あははっ、なら嬉しいですね。兄といつでも会えるし、働きっぷりを見張ってやれますから」  

 …ここはポルカーナ、ヒトも妖精も精霊も、クマもゴリラも仲良く暮らす暖かい街。  
 ここで髪が白いなんてものは最早数ある個性の1つでしかない、しかも没個性に近いかもしれない。  
 きっと、兄ものびのびと生きていけるだろう。  

 …後日、手紙で兄が本当にポルカーナに来ると知り、驚きを上司と共有するのはもう少し先のこと。

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